【FF14】星芒祭の夜に

小説/二次創作二次創作

光フレとシドゥルグ+リエル ほんのり腐向け

フレイが星芒祭の夜の思い出を語ったり暗黒クエの面々で星芒祭デートしたりする話
ヒカセンは錬金50以上前提、ほぼ描写ないですが一応オスラです。


イシュガルドの夜は、息も凍えるほどに寒い。
それが星芒祭の時期となればなおさらである。
第七霊災後は死者が出るほどの寒さを誇る日もそう珍しいことではなくなった。
特に、下層民の暮らすここ雲霧街はその影響が最も出やすい場所である。
皇都の玄関口たる聖徒門から雲霧街へと下る朽ち木の階段の踊り場に、黒衣のミッドランダーが一人、佇んでいた。
あまり手入れのされていない、ぼんやりと暖色を放つ街灯を見上げながら、白い息をつく。
目元以外すべてを覆っている兜の中に吐いた息がこもり、ほんの少しだけ暖かかった。
――そう、別に、わざわざここで「彼」を待つ必要はない。
フレイの身体を借りた黒衣の男こと、英雄の影身は、彼の内へと還ってからも時折エーテルを借りてはこうして二人旅をする生活を続けている。
すでに彼には正体を知られているわけであるし、なにもこの場所でなくては会えないわけではない。
だというのに、フレイは彼との待ち合わせの時のはついこの場所を選んでしまう。
生前の「フレイ」の記憶のせいだろうか。彼もよくここで、シドゥルグや師と待ち合わせしていたらしい。
影身の主はそれをわかってかわからずか、特に不思議な顔をすることもなく「雲霧街で」と言えばいつもそこへ現れた。
「いつもの場所」はもはや、いわば二人の間の符牒のようなものだ。
そして今日もまた、影身はこの場所で彼の主を待ちながらぼんやりと物思いに耽った。

「フレイ」
ふいに頭上から聞こえた声に仰ぎ見ると、ちょうど待ち人が息を上げながら老朽化した階段を下ってくるところだった。
「ああ、来てくれたんですね。待っていました」
「遅くなってごめんな」
「……どうせまた厄介事に巻き込まれたんでしょう?」
いつもそうだ。フレイの主たる、世界の英雄様は、なにかと厄介事を拾ったり押し付けられたり、断れないのをいいことにたくさん抱えてしまうのだ。
フレイのため息に気づいて、光の戦士は「やっぱりお見通しだったか」と肩をすくめて笑った。
「ウルダハの錬金術師ギルドの横に小児病棟があるだろ?あそこの人たちの手伝いをしてたんだ。贈り物まで貰ったし、悪い仕事じゃなかったぞ」
「……お人好しはこれだから」
今度はフレイが肩をすくめる番である。
「懐かしいな……。「フレイ」も、星芒祭の頃になると師から贈り物を貰って喜んでいたようですね」
「……まだ、覚えてるんだな」
「ええ。彼の記憶は、君のソウルクリスタルの中に、永久に、共にありますよ」
「そういやシドゥルグは?あいつも何か貰ってたのか」
「ええと、ちょっと待って下さいね……ああ、フレイと共に貰っていたみたいですね。もっとも彼は、星芒祭にちなんだお菓子より武器がいいと拗ねていたようですが」
「あいつらしいな」
笑い合いながら、彼から贈り物で貰ったという品を受け取り、中を二人で見分した。
「ええと……アラグ銅貨に、白光のデミマテリダに…おや?」
ギルと交換できそうなアイテムの中に、小さな瓶が入った袋が紛れている。
取り出してみると、それは錬金術師ギルドのマスター、セヴェリアンからの密かな贈り物だった。
ご丁寧に研究用のメモを切り取ったであろう紙に書かれた手紙も付いている。
「怪しい薬品じゃないでしょうね……」
「安心しろ、フレイ。お前向きの物みたいだぞ」
意味深な笑みを浮かべた光の戦士がフレイに、手紙とは呼びづらいその走り書きを手渡す。

我が助手へ
先程お前の姿を見かけたので、ダミエリオーの奴に頼んで贈り物に新作の薬品を入れておいた。
一時的にではあるがエーテルをより効率的に摂取できるようになる素晴らしい研究成果を反映したものだ!
エーテルを用いて戦う暗黒騎士とやらにはうってつけだろう!喜んで使うが良い!
なおギルドの連中に試飲させたら味をなんとかしろと言われたので、不服ではあったがブランデーのようなものも混ぜてみたぞ!

読んで、フレイは絶句した。こんなもの、飲んだら酔っ払って戦闘どころじゃない!
一つ取り出して匂いを嗅いでみると、酒の匂いがひどく香り、軽くめまいがした。
「混ぜたというか、ほとんどもうブランデーじゃないですか、これ……」
「だな……」
酒気を放つ小瓶を手に、英雄と影身はイシュガルドの寒空の下で立ち尽くす。
「ギルに変えられるものだけでも売り払いに行くか…」
光の戦士の一言のあと、影と主は上層の宝杖通りへと歩き出した。

アラグ貨幣を取引したあと、英雄が振り返ると料理屋の方から歩いてきた二人連れと目があった。
「シドゥルグ、リエル。買い物か?」
「ああ。……フレイも一緒だったのか」
シドゥルグに軽く会釈をしながら、フレイは彼が手に持っている湯気立つ飲料に気がついた。
「美味しそうですね」
「そこの店でリエルが買ってきた。俺の分はいらんと言ったんだが」
「リエルからの愛でしょう?無碍に断るんですか?素直に受け取っておくべきだと思いますけど」
「なッ……」
フレイの皮肉めいた一言に激昂したシドゥルグが手元の飲料を取り落としそうになったのを、リエルがあわてて受け取る。
横に居た光の戦士はその様子をただ見ていたが、湯気に交じる香りに何か気づいたのか、リエルの持つ容器を覗き込んだ。
「イシュガルドティーか。茶葉が独特の匂いをしてるから分かりやすいな」
「うん。そこの料理屋さんで配ってたの。今日は、星芒祭の最後の日だからどんな人にでもあげるって」
英雄はリエルの持つ2つのカップのうち、シドゥルグの分だというほうを受け取り軽く試飲する。
ヤクの乳特有のコクが、冷えた身体に心地よい。
そう、ここに濃いアルコールでも垂らしてあれば最高だ。
アルコール、そうだ。光の戦士は思い出す。先程のセヴェリアンからの怪しげな贈り物のことを。
懐から小瓶を取り出すと、酒香る液体を適量、イシュガルドティーの中に垂らして混ぜた。
味見してみる。上々だ。
様子に気づいたフレイが、シドゥルグをからかうのをやめてこちらを向いた。
「さっきの薬品を入れたんですか?」
「ああ、そのまま飲むより断然うまいぞ」
怪訝そうな顔をする影身に薦めると、疑いの目線を向けながらも一応は試してみる気になったらしい。
不機嫌そうに話を聞いていたシドゥルグとともに感想を待つと、フレイはふぅ、と心地よさそうなため息をついた。
「おいしいです」
「だ、そうだ。シドゥルグ、お前もどうだ?」
「少しだけ、貰おう」
そう言ってフレイからカップを受け取ったシドゥルグも、ブランデー入り薬品の混ざった温かい茶を飲む。
そして、むせた。
「ッおい!なんだ、これ、は……!」
長駆のアウラの男が涙目でむせているところなど、なかなか見れない。無様なシドゥルグに、フレイはおかしくなって吹き出した。
「あはは。シドゥルグにお酒は早かったみたいですね?」
「く……フレイ、それを言うならお前のほうが年下だろう……!」
なおも涙目のシドゥルグの背中を、健気なリエルがさする。大事ないだろうとは思ったが、光の戦士も一応形だけそれに倣った。
「シドゥルグは飲めないみたいですし、このお茶、僕が全部飲んでもいいですか」
律儀にフレイが問うと、リエルはこくりと頷く。それに微笑むと、フレイは薬品入りのイシュガルドティーを一人で飲み干した。
「クソ……えらい目にあった……」
ようやく収まったらしいシドゥルグの横でリエルも温かいイシュガルドティーを飲んでいる。
生き身のままで莫大な魔力を宿すリエルには薬品が危険そうだということで、彼女が飲んでいるのは店で配っていたそのままのものだ。
飲み終わると、リエルはシドゥルグの鎧をつついた。意図に気づいたシドゥルグが、フレイと英雄に別れの手を振る。
「シドゥルグの分、もういっかい一緒に貰いに行ってくるね」
「またな。……良い星芒祭を」

シドゥルグとリエルを見送ったあと、人影がまばらになるとふいに影身は光の戦士にもたれかかった。
「すみません、エーテルに酔ったみたいだ……さっきの薬のせいかな」
「がぶ飲みしてたからじゃないのか?」
「だって、飲めば飲むほど君のエーテルが美味しくなる感じがして……仕方ないじゃないですか」
むくれたように甘えかかってくる影身の身体を支えながら、英雄は自宅へのテレポを詠唱し始める。
「帰ったら、たっぷり補充させてもらいますからね」
「はいはい」
酔って数割増したらしい貪欲ぶりに呆れつつフレイの頭を撫でる光の戦士の表情は、どこか嬉しそうでもあった。

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