【FF14:フレ光】君纏う闇

小説/二次創作二次創作

一張羅をAF(Lv80)に切り替えた時の話。
+影身顕現 取得のあれこれ

メインクエスト5.0と暗黒Lv80クエネタバレがあります。

※ほぼ描写ありませんがヒカセンはオスラです


皇都にしては珍しく青空の広がったある日のことだ。
第一世界から帰還した光の戦士と呼ばれた男は、久しぶりにイシュガルドの「九つの雲」亭で新たな相棒となった武具の手入れをしていた。
アシエン・エメトセルクの言を信じるならば、どう見ても第一世界に分割されたゲロルトにしか見えない男の元で手に入れたその紫闇の鎧にも大分身体が馴染んできたところだ。
激戦の直前に着替えたためか、それはすぐに傷だらけになったが、かえって箔がついたように思う。
不思議なことに、以前の戦神鋼鎧に比べしっとりと体全体を暗黒のヴェールが包むような質感があり、光の戦士はこの新しい鎧を密かに気に入っていた。
――あいつは、どう思ってるんだろうな。
そんな思いがふと頭をよぎった瞬間、ベッドに腰掛けて手入れをする彼のすぐ横から、ぬらりと闇が立ち上った。
「似合ってますよ、それ」
誰あらん、彼の影身であった。

「なんだ、お前最近は随分簡単に顔を出してくるようになったな……」
「君が暗黒の力……エーテルの扱いにより熟達したからでしょう」
うまく僕のことを「使える」ようになったと捉えればいいと思いますと、影身はこともなげに言った。
「昔のお前が聞いたら怒り狂いそうだが……」
人のことをなんだと思ってるんだ!とか言いかねない、とオーガでも真似るかのように両の人差し指で角を頭上に増やして見せたら、目の前の影はぷっ、と吹き出した。
「なんだ、本当のことだろ?」
「まあ、そうですね」
笑いを収めた影身は、ベッドの横に腰掛けて光の戦士に向き直ると、頰に手を伸ばし微笑む。
「勿論、思うところがないわけじゃないですが……僕はこうして君の力になれることが、何より嬉しいんですよ。抱えていた黒いものが、すうっと綺麗に昇華されてしまうくらいにはね」
共に旅をするとは言っても、普段はずっと、彼の内側から見守るだけ。
ミストの事件や、「緊急事態」には手を貸すこともあったけれど、結局は彼自身が影身を頼ってくれないことには表に出ることは叶わないのだ。
そんな、大切な人が傷つくのを見守るだけの立場がどれほどつらいか、何かにつけてサンクレッドや皆の役に立とうと空回りをしがちなリーンの姿を見てきたのも影響しているのだろうか。
影身は、光の戦士がエメトセルクを追い深海の旅をする頃には呼びかけに応じて姿を形成し、彼の手助けをすることが出来るようになっていた。
それがほんのわずかな時間であれ、「あの頃」みたいに肩を並べて戦えるのだ。
それだけでも、夢のような話であった。
――全てを捨てて、二人きりで遠くへ旅に出ましょう。
抱えたものは捨てられなかったけれど、旅の仲間は随分と増えたけれど、二人で遠くへ旅するという夢は叶ってしまった。
負の感情から生まれた、こんな自分の夢が叶ってしまったのだ。
自分自身に恩返し……というのも変だが、とにかく影身はそういう気持ちで彼の呼び出しに応じて戦うことを決めた。
自在に呼び出すことが可能になったのも、あるいは影身のその覚悟があったからかもしれない。
「というか……戦ってる最中でもないのに、どうかしたのか?」
怪訝そうな顔をしながら肩鎧の溝に溜まった魔物の体液を拭う主に、影身はゆっくりと告げた。
「何か、悩んでいるんでしょう」
テンペストで全てを見届け、クルザスで「あの日の誰かさん」の弔いをして帰ってきてから数日、彼の煩悶には気づいていた。
影身はそれを強引に暴くこともできたが、これを解きほぐすのは自分の役目であるように感じていた。
――表には出さない優しい彼の、負の感情はこの僕なのだから。
誰にも譲れないし、譲りたくもない。
罪喰いの光に呑まれかかった彼をすんでのところで人たらしめていたのも、自分の「彼が誰かに英雄として利用されたまま殺されてたまるか」という執念によるところが大きい。
光の戦士本人は気づいていないかもしれないが。
「あの時、俺たちがハーデスに勝って、良かったんだろうか」
ずっとそんなことを考えていると、主は言う。
退ける場面ではなかったし、それは相手も同じだった。
彼の背負ってきたものを忘れるつもりもない。
信念と信念のぶつかり合いだったからこそ、エメトセルクの言う「敗者がみじめにならない」解決になったのだろう。
だが、元来お人好しの光の戦士は、どうにも納得していないらしい。
「君が抱えて旅していたのはけして光という重荷だけじゃないでしょう?」
僕がいたじゃないか。
影身の眼差しは、思い悩む主の心に突き刺さった。
間髪入れずに、影身は主に付け加える。
「彼の言うように古代人たちの世界が、いがみ合いのない完璧な世界だったとして……それはとても、無味乾燥で寂しい世界でしょうね」
「そうかな」
「僕は、そう思いますよ」
優しく、しかしはっきりと言い切った影身を前にして、光の戦士はなにか思い立ったらしい。
「テンペストに……アーモロートに行こう」というや否や、彼の身体は転移魔法の光に包まれていた。

黒風海の底、テンペストの薄闇の中、幻影都市を望む断崖に光の戦士と影身はやってきていた。
闇に連なる騎獣・グラニの背を撫でながら、もとは一つであった二人は街並みを前に肩を寄せ合う。
主の思いは分からずとも、この街に何故だか足が向いてしまうのはわかる気がする。
たった一人で突き進む者が、その心を慰撫するために作ったかりそめの街。
その生き様は、手法こそ異なれど、光の戦士とどこか似たものがあった。
影身は、エメトセルクが光の戦士に勝てなかった理由は、彼が一人で完璧すぎたからだ、と信じている。
彼らのいう「なりそこない」だから、彼の主は勝てたのだ。
古代人のオリジナルであるエメトセルクことハーデスは、人を頼ることを、永い時の中で諦めてしまった。
彼は「なりそこない」に寄り添おうとしたが、その度に、それらが自分たちと同じでないことに絶望した。
気持ちはわからないでもない。
だが、誰かを喪ってなお、傷を負ってもなお、性懲りも無く明日を描いて歩いていく、それを忘れた以上、その強さを持つ者に勝てるはずなどないのだ。
数多の暗黒騎士たちの魂と歴史を宿すソウルクリスタルが、その諦めの悪さこそ暗黒騎士の愛であり強さなのだと証明しているし、それに宿る存在でもある影身も無論そう考えている。
それを伝えるならば、今がその時なのだろう。
――だから、君はここへ来たんでしょう?
影身はやっぱり僕が思った通りだ、と言った。
「君は「まがいもの」なんかじゃない」
光の戦士に相対し揺らめく闇に、力が灯る。
再び伸ばした手で、影身は主の頰を包んだ。
深海の底で、光と闇が、いま再び混ざり合う。
「僕は、君という英雄の、人としての闇みたいなものです。きっと、彼と理想郷にいたころの君には、なかったものかもしれない」
完全なる魂に、負の側面があってはならない。
それが生まれてしまったからこそ、太古の世界は滅んだのだ。
それは光の戦士にも、わかる。
ゆえにその言葉に、息を飲んだ。
影身は、続ける。
「けれど……僕はこの不完全な、「僕たち」が好きです。時に傷つくこともあるこの世界が……どうしようもなく好きなんだ」
君だってそうでしょう、と常になく声を荒げた。
「君は見たはずだ。僕が君を利用したと怒った、あの例の商人が、あんなにも君の心を打つ存在になっていたこと。彼が元から非の打ち所のない人物だったら、僕らは彼を助けたことをこんなにもよかったなんてきっと思いもしなかった!」
彼を困らせるのもかまわず、感情のまま、思いの丈をぶつける。
「そうやって必死にいまを生きている僕たちは、確かになりそこないかもしれない。でも、生傷の絶えない不完全さこそ、ほんとうに生きてるってことだと、僕は思うんです」
シドゥルグだっていつも傷ばかりつくっていましたしね、と茶化す影身の呟きに、主はくすりと笑って視線をこちらに寄越した。
「フレイ、お前なぁ……」
その名で呼ばれるのは、本当の自分のものではないのに、どこか懐かしく、くすぐったい。
こんな負の感情の塊でしかなかった僕に、身体と、こころと、形をくれた彼の名前。
それですら、英雄という生き方に心を殺されかけていた彼が、イシュガルドの悲惨な歴史や彼の死と出会わなかったら、起き得ていない出来事だ。
そんな「なりそこない」の悲劇の連鎖が生んだようなものである僕はきっと、エメトセルクから見たら唾棄すべき筆頭だったのだろうと影身は思う。
――だけど。
「僕のような、生きる痛みを生まない世界なんて、きっとすごく幸せで……。だからこそ、「その先には何もない」よ」
昨日も、明日も、発展を亡くした世界は停滞を迎え、漠然とした恐怖に呑み込まれて滅んだ。
殊更悲劇めいて言っていた「厄災」とやらも、真実は案外そんなとこなんじゃないですかね、と影身は肩をすくめた。
視線の先には、時計の針がループするだけの、いまは魔力の残滓でしかない幻影の街が広がる。
その光景は、幾千の過去や未来さえも変えてしまった奇跡の上に成り立つ「いま」の大切さを、改めて実感させてくれる。
「彼らの理想郷を、素晴らしいとは思えません……でも。いや、だからこそ、
かな」
アーモロート。はるか昔に滅んだ、理想の街。
友のために、幾星霜を戦ってきた男。
幻影の街で、己を幻影と知りながら友を案じた男。
そして彼らが己に見た、分かたれる前の「誰か」の姿。
「彼のこと、彼らのこと、僕は忘れません」
――それこそが、僕らがいまを生きてる証拠でもありますから。
かつて消えゆくだけの存在だった影身は、今はもう消えてしまった太古の律儀者に、小さく黙祷を捧げた。
「ああ、俺もだ」
主もまた、彼の男を想いながら、静かに目を閉じる。

その顔は、夜の海のような穏やかさを取り戻していた。

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