
見てきました、室町ロックフェス。
未経験のため例えが正しいかは怪しいですが、間違いなく爆音上映、(声を出してもいい)応援上映があったら相当盛り上がるだろうなと思わせる映画でござった。
自分が見てきたのは声を出してはいけない通常の上映なんですけど、思わず映像に合わせて声をあげ、手を叩きたくなる、そういうパワーがありました。
それでいて、「琵琶法師の物語」というテンプレート、「歴史IFフィクション」の王道をぶち抜くお堅さも持ち合わせている、アヴァンギャルドと王道の融合作。なんと評価していいかわかりませんが、私は好きです。
海外での先行上映?の際はロックオペラとも呼称されたそうですが、オペラを歌劇と和訳するならばまさに歌劇の名に偽りなく、しかも、室町時代の琵琶法師と猿楽をテーマとする歌劇です。稀有というほかないでしょう。
見て大正解でした。
「犬王」自体は2人の男の物語として独立していますが、同スタジオのアニメ・平家物語を見ていると、その外伝であり完結編という立ち位置も強く感じられます。
一度は大団円を迎えたものの、終幕にやや心残りのあった平家物語に、きちんと幕引きを与えてもらえたような感覚があったのはありがたいことでした。
市井の人々の、泥臭い中にも生の躍動を感じる描かれ方も良かったし、
誰もが知る世阿弥が犬王のあの舞台に居合わせていたという演出も、能楽の大成や風姿花伝の生み出された未来を想起させ、歴史フィクションとしておいしい。
(視聴後、慌ててチェックしましたが、風姿花伝の内容と本作のメッセージは少なからず同じ血が通っている部分があるように思います)
一緒に見に行った相方も絶賛していたのですが、目が見えない友魚や琵琶法師たちの「見ている」世界の描写がすごくうまいなぁ!と膝を叩かざるをえない描き方で、ビジュアル面も新鮮で目が離せない作品でした。
語り部はあくまで友魚(友有)で、犬王は語られる対象というのもいいですね。
最後に犬王が友魚の魂を見つけるあたりは原作と異なる展開があるとパンフに書かれていたけど、琵琶法師のテーマである驕れるものも久しからず(足利家もしかり)と、不遇の英雄となった二人に対する判官贔屓的救いがミックスされた劇終が、あえて少年時代の出会いの二人だったというところが個人的にとても好きです。
友魚は琵琶法師だが平家の魂ではなく犬王を歌う琵琶法師、二人で一人だったため、彼を失ったら琵琶法師になる前の友魚に戻った。
犬王も琵琶法師には会わぬと宣言した後は特徴のない、能面のような顔になり、文字通り「犬王」を捨てた。
肉体こそ死んでいないが、彼の魂は一度あそこで死を迎えたのだと思う。
パンフでも触れられてたけど、犬王は人に戻りたくてパフォーマンスを選んだわけではないのがポイントなんですよね。
妄執に囚われた男を演じるとハチャメチャにハマり役になる津田さんもよかったです。
犬王の父はまあ完全に「悪」なんだけど、存在が邪悪というより、彼もまた芸を極めようとした結果邪悪に堕ちた存在なんだよなぁ。
でも、「すぐれた芸の本質」は「すぐれようとすること」ではなく、「楽しむこと」だから、彼は呪物の囁きに負けたし、パフォーマンスそのものを楽しんでいる犬王には勝てなかったし、それを理解することもせず、応報を受けて死んでしまった。
作品のベースとなっている室町時代については「好きだけど詳しくない」範疇だったのでついていけるか不安半分で見たのですが、前提となる知識がなくても楽しめ、あったら倍たのしめます。
(さすがに室町時代ってなに?足利義満って誰?聞いたことない…レベルだと微妙かもわかりませんが、この映画がアンテナに引っかかる人はその辺は多分大丈夫でしょう)
パンフにもあの時代の琵琶法師が組織化されていった流れについての回収があったので、そこらへんを深掘りしたかった民としては安心しました。
劇中歌の歌詞、背景ビジュアル、キャラクターデザインも掲載されてるのでパンフ割とおすすめ。
劇中歌で特に好きなのは「鯨」です。映像とあいまって、フェスのシーンとしては最高潮に盛り上がる場面だったように思います。
劇場で見ると音と映像がど迫力なので、もし気になってる方は劇場でやってる内に見るのを強くおすすめします!
いやー室町時代、イイ…イイですね…