#hadesweekly 7/29分 お題:「初めての」
パトアキ再会時のちょっとした話です。
再会を寿いで二人、唯そこに佇むこと、何刻経ったろう。
永遠の楽土という言葉の皮肉を今日だけ認めてやってもいいと、パトロクロスは鼻を鳴らした。
腕の中で愛しい男が身じろぎする。
言葉などなくても二人には問題なかったが、彼はあえてそれを口にしたいようだった。
「パット、おまえにキスをしても?」
「かしずいて、「どうぞ」というべきか?」
わざと茶化すと、不満げに脇腹を小突かれた。彼はまだ俯いて、耳を赤くしながら唸る。
「……再会して初めての口付けなんだ、少しくらい……」
不満の声は、やがて涙に変わった。言葉もなく抱き合っていた時も彼はずっと涙を流し続けていたが、元来激情家なのだ。それくらいでは治まらなかったのだろう。
だがパトロクロスはもらい泣きを警戒するよりも、久しぶりの彼の唇を味わうことに緊張していた。こんなに緊張したのは、生前彼と初めて関係を持った時以来かもしれない。
「……嫌か?」
泣き腫らした碧い瞳が、待ちきれない様子で愛を求めてこちらを釘付けにする。
「いいや」
涙の筋が残る、すっかり壮年の頬を掬い上げると、身罷りし戦士は静かに額を合わせて囁いた。
「きっと、少しでは済まないぞ」