【Hades/パトアキ】Summer someday

小説/二次創作二次創作/Hades

#hadesweekly 8/5分 お題:「夏」

パトアキ夏の思い出。


永遠を象徴する冥界の空調が壊れるなんておとぎ話があったなら、生前聞かされたとしてもきっと信じなかっただろう。
だがここは神の領域なのだ。何が起きても不思議ではないというのを、つくづく理解させられる。
……それにしたって、冥界の王子から「冥界にヘリオス神が墜落したんです!」という知らせを聞いたときには傍らの戦友ともども目が点になってしまった。
彼の神はどうにかオリュンポスに帰れたそうだが、その余波でエリュシオンの快適な空気は崩れに崩れ、故国の灼けるような乾いた熱波が亡霊となって久しいこの身を焦がす。
聞けば復旧には神の力を持ってしても数日かかるらしい。
その間暇を出されたアキレウスはというと、最初こそぽっと急に出来た余暇の潰し方にまごついていたものの、結局のところいつもより長く共にいられるということで、この珍妙な出来事を楽しむ方向に頭を切り替えたらしい。
「あとでいつもの場所の水場に来てくれ」の一言を残し、足取りも軽く一人で先に行ってしまった。

かつては自身がわびしく、今は二人が静かに時を過ごす区画に新たにしつられられたバスタブで、彼は水と戯れていた。
水面には冥界に咲くザクロの花、そして爽やかなミントとラベンダーの香りもする。
今はもう呼吸の必要のない肺いっぱいにその芳香を吸い込む。
ふとこの光景に、パトロクロスはひとつの記憶を思い出した。まだ二人が少年と言っていい頃、浜辺でじゃれあった時の。
「借りを返すぞ、アキレウス」
「パット?ようやく来、」
ばしゃん。
水浸しのまま目をぱちくりさせているアキレウスは、愛する男の意図に気づいたのか、次の瞬間猛抗議の声を上げ、自身も水を掛け返す。
「パトロクロスッ!!」
「やったな?」
親友の隙をついて水を掛け、いたずらに成功した美少年は太陽のように笑う。
忘れるはずもない、けれど遠い昔の二人の思い出が、今ここで鮮やかに蘇る。

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