#hadesweekly 8/19分 お題:「さよなら」
名残惜しそうに絡まった指が、どちらからともなく離れていく。
もどかしさにつられて、アキレウスがからからと笑う。
「同じ別れであっても、再会が約束されているのは……この上なく喜ばしいものだな」
その言葉の重みを、二人は十分すぎるほど知っている。
パトロクロスは昔から、アキレウスが朗らかに笑う姿が好きだった。海風に揺れる大輪の花のような笑顔。
こうしてまた見られるとは思っていなかった。何度も希望を抱いては、諦めようとして、結局諦めきれなかった。それが今、目の前にある。
一度経験した永遠の別れの傷は、未だ完全には癒えぬ形で残り続けては、時々疼く。
――それでも、この奇跡のような幸せを甘受するくらいは許されるだろう。
甘え足りないのかふたたびこちらに抱きついてくる男の背中に、仕方ないなと手を回した。
手を伸ばしたら、待っていれば、届くという安心感は何物にも替え難い。
「お前のことだから、館で悲嘆に暮れていたころはずっと泣いていたんだろう?酒場で自棄酒もしていたかもしれないな」
頬に手を滑らせ皮肉めいた睦言を囁いてやれば、彼は不満気に口を尖らせ、視線を逸らした。
はっきり否と言わないところがいじらしい。
拗ねたように「もう行く」と今度こそ離れた男に「行ってこい」と肩を叩き、耳に届くか否かの声量でパトロクロスは呟いた。
「なにもおまえだけを笑うつもりはない。泣き暮らしていたのは……私もだ」
駆けていく英雄はたしかに、それを聞き届けた。