【Hades/パトアキ】SUN/SKY/SEA

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DAY6 : SUN/SKY/SEA

冥界の書に増えた、とある記述。


「あなたも冥界の書に何か書きませんか?」
ザグレウスがエリュシオンに佇む戦士にそうウインクしてみせたのは、冥界の盛大な宴が終わり、分かたれた二人の男が再会を果たしてしばらくしてのことだった。
「冥界の書?その不思議な帳面はアキレウスが君に寄越したものだったのか」
「ええ。最近師匠が書いた分をすべて解読できたと師匠に報告したら、お前の考えていることも書き込んでみてはどうか言われたんですが……」
あいにく、この王子は腰を落ち着けて書き物をするのが好きなタイプではない。
アキレウスもそれは知っての上言ったのだろうが、師の助言を無下にするのもなんだか気が引けた。考えながらも冥界をぐるぐる走り回るうち、彼は道すがら会う友人たちに「執筆依頼」をして回ることを思いつき、今に至るというわけだ。
「たしかに、ここで何もせず無為にアキレウスを待っているよりは面白い試みかもしれないな」
「でしょう?じゃあ、次に会う時までに書いておいてください!」
いつものように支援物資を受け取って、上機嫌で手を振る。走り出す一瞬、彼が早速思案にふけり始めたのが見えて、ザグレウスの口元は再会を思って自然と笑みの形になった。

「……パトロクロスが冥界の書の私の項目を読んだのか?」
千々に乱れたあの感情むき出しの走り書きを愛する男に読まれたという事実に他ならない。アキレウスは内心打ちのめされながら、目の前で尻尾を振る犬のごとく瞳を輝かせる弟子に嘆息した。
ザグレウスの本題はどうもそのこと以外にあるようで、彼は喋らせてもらえるのを先程から今か今かと待っている。
「師匠、挟んである紙を見てください!冥界の書の新しい記述を彼にお願いしたんです!」
それを聞いて、アキレウスはげんなりした気持ちが幾ばくか和らぐのを感じた。静謐な泉のような性根の彼が記すもの。興味が沸かないわけがない。
「ふむ、どれ……」
手渡された羊皮紙に綴られた文字を目で追いかけていくにつれ、彼の頬や耳はどんどん紅潮していく。
――その笑顔は太陽のよう。深い情熱は海のよう。空のように澄んだ瞳。これほど美しいものを私は知らない。
まるで愛の告白めいた一片の短い詩の不意打ちに、英雄は羞恥に耐えきれず顔を覆った。直接耳元に愛を囁かれるよりも面映ゆくもどかしい。
いたたまれなくなってちらりと不埒な伝令者を見ると、彼は悪戯っぽく、満足気に胸を張っていた。

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