#hadesweekly 9/30 「後悔」
師匠ばっかりが後悔してるとも限らない話。
エリュシオンの片隅にて。
最愛の者と再会を果たしてから、すっかり明るくなったはずのパトロクロスの表情には翳が差していた。
足繁く通ってくる友人――冥界の王子がその変化を見逃すはずもない。
「師匠と何かあったんですか?」
隠し事は得意なはずなのだがとため息をつきながら始まった述懐を、ザグレウスは神妙な面持ちで聞き入った。
「あなたには自分と違って後悔などないだろうと、師匠がそう言ったんですか?」
無言で頷く彼は、どうみても師のその言葉に喜んでいるとは思えなかった。
師匠も師匠だ。再会かなって嬉しいのはわかるが、今回ばかりはいささか言い方が悪かったのではないかとザグレウスは頭を掻いた。
「私とて後悔はある……なぜ彼の指示に従い撤退しなかったか。ここへ来てからも、なぜ彼のことを疑ったりしたのか。とはいえ、君に聞かせることでもなかったな。すまない」
王子は「いえ」とすっかり萎れている彼の謝罪を遮って、背後の気配へ視線をやった。
「……だ、そうですよ、師匠」
一連のやり取りを聞いていたらしいアキレウスが気まずそうに彫像の影からおずおずと出てくる。
ちょうど勤務明けでうきうきと逢瀬にやってきていたのだろう彼は、今にも泣きそうな声で「すまない」と言うのがやっとのようだった。
ザグレウスは何か言おうとしたが、それより早く師の伴侶が歩を進めて彼を抱きとめたので、彼は眉根を上げて肩をすくめるに留める。
後悔は愛のスパイス、というオルフェウスの言葉を思い返しながら。