【Hades/パトアキ】fight

小説/二次創作二次創作/Hades

#hadesweekly 10/7 「喧嘩」

わんこと弟子の喧嘩を見守るパトアキ。


赤い毛をした三つ首の友の姿が見えないことにホッとしつつ、ザグレウスは交差路を見守る師に小さく手で合図した。
「浮かない顔をしてどうした。何か悩んでいるようだな、ザグレウス?」
やはり今回も彼にはお見通しだ。内心舌を巻きながら、それでも師匠ならば真摯に聞き届けてくれるだろうと期待して、冥界の王子は普段より重い口を開く。
「その……くだらないことでケルベロスと喧嘩してしまって……仲直りするきっかけが掴めないんです」
アキレウスはふむ、と唸ってから、思い出したように「それならば」と弟子の肩を軽く叩いた。
「パトロクロスに聞けばいい。彼は生前たくさんの犬の世話をしていたからな。冥王陛下の愛犬が地上の犬と同じかと言われると怪しいところだが……」
参考にはなるかもしれない、という言葉の終わりは、既に地上へ向けて駆け出していた活発なる冥界の王子の耳をそよ風のようにかすめていった。

そんなわけで、その日ザグレウスがパトロクロスに求めたのはいつものお役立ち物資ではなく、種を超えた親友との仲直り方法だった。
「師匠が、あなたなら分かるだろうと……」
「アキレウスめ……」
濃く蓄えた髭の下でうっそりとぼやく口調に反して、その表情はどこか嬉しそうである。
「まれびとよ、簡単なことだ。人であれ、犬であれ、必要なものは誠意と正直さだ。君の方に非があるならばそれを認めて、素直に謝罪すれば良い。例え君に非が無くとも、君が譲歩したことで相手も君を許しやすくなるだろう」
「……わかりました。今回は俺が悪かったし、帰ったら真っ先にあいつに謝らないといけませんね」
「ケルベロスがどのような犬なのかは私の預かり知るところではないが……すくなくとも君の師よりは組し易いだろうな」
「師匠が?」
方や温厚だが暴れ出すと手がつけられない三つ首の魔犬、方や思慮深く自分を見守る保護者然とした師とでは、まるで結びつかない。ザグレウスは首を傾げた。
「その顔を見るに、あの男は相当君の前では善き師の皮を被っているようだな。まれびとよ、少し昔話をしよう。あれは私達がまだ…」
目の前の男が生前の彼がいかに手強い相手だったかを淡々と語るものだから、師とさぞや面倒な喧嘩を数多繰り広げてきたのだろうと想像し……話を聞き終えてもやはり、あまりうまく脳裏に画が描けなかった。
そんな一人百面相をエリュシオンの戦士は穏やかな顔で愉快げに眺めつつ、訪問者の背を叩いて旅の再開を促す。
「死者の昔語に付き合わせてしまってすまない、早く友に会いに行くといい。つまらぬ喧嘩で引き裂かれたままの時間は短い方がいいに決まっている」
王子の去り際、パトロクロスは「ああ、そういえば」と一つ、彼に付け加えた。
「先程の話、アキレウスには内緒にしておいてもらえるだろうか」
「えっ、なぜです?」
再び首を傾げることになったザグレウスに、彼は「話したと言ったら、きっと恥ずかしがるだろうからな」と頰をかいて、目を逸らすのだった。

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