【Hades/パトロクロス+カロン】Shopping

二次創作/小説二次創作/Hades

#hadesweekly 11/28「買い物」

カロンの店で買い物するパトさんの話。


守銭奴で知られる冥界の渡し守は、金貨さえ差し出せばどんな相手だろうと物品を譲ってくれる。
――そう、たとえばそれが死せる英雄の影であっても。
「…………」
パトロクロスから金貨を受け取ると、彼は脇に並べた品々を指さして唸った。取引に応じてくれるらしい。
エリュシオンの戦士達から横流しされた支給品の他に、この辺りではあまり見かけない品々も混ざっている。
試しに金色の酒盃を手に取ってみたが、寡黙なる渡し守カロンは何も言わない。特に咎められる様子は無いと見て、パトロクロスはじっくり商品を選ぶことにした。
思い出すのは、照りつける太陽。行き交う人と馬の足並み、砂埃と賑やかな声。
ステュクス河の岸辺に開かれたささやかな露店は、地上の市場のような喧騒とは程遠いが、珍品を間近で眺めて品定めをするのは、どこであっても楽しいものだ。
――とりわけそれが、親しい相手への贈り物を探すとなれば。
何気なく手に取った黄金の酒盃に映る自分の顔を見て、いつになく上機嫌になっているのに気づく。
普段ならば他人と会話することすら避けていたはずの男は、ふと思い立ったようにカロンに声を掛けた。
「店主よ。冥王の館の守衛に贈るに相応しいのは、花、栄冠、武具、宝飾品……どれだと思う?」
「…………」
短く唸りながらカロンが指差した先を見て、パトロクロスは満足げに頷いた。
「ああ、奇遇だな。私も『それ』が良いと考えていた」
二人の視線の先にあったのは、古ぼけた竪琴である。
かつての英雄アキレウスの魂は、この男の船で運ばれた訳ではない。冥界においても、けして接点は多くないはずだ。しかし、カロンは迷いなくそれを指さした。
数多の死者たちの語る噂やこぼれ話を通じてアキレウスの趣味を知ったのだろうか。
どんな形にせよ、かの英雄は武勇に優れるのみならず、穏やかに竪琴を奏でる心優しい男でもあったと理解されていた事が、パトロクロスには喜ばしく思われた。
「では、これを頂こう」
しかし、竪琴を抱えて店主に別れを告げようとした彼の腕は、どういうわけかものすごい力によって押し留められた。
ぎょっとして振り向けば、カロンの骸骨そのものの顔が至近距離で何かを訴えている。瞼の無い眼窩の奥に灯る暗冥の炎はぎらぎらとパトロクロスを見据え、乱杭歯からは唸り声と共に不満を表すかのような紫煙がゆらゆらと漏れ出ていた。
「……ああ、そういうことか。やれやれ」
貰った分では足りない、と言わんばかりに差し出される骨ばった掌に、しかたなく懐から追加の金貨を差し出す。
解放された腕を振りつつ、次に冥界の王子が訪ねてきた時の話題ができたなと、彼は肩をすくめるのだった。

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